我が愛すべきV.R.

二日遅れか?悪い悪い。

毎度お騒がせしております。白狐でございます。

さて、この世に、「原作もの」というジャンルのあることは皆々様方周知の事実であると思う。一般的に、名作秀作の漫画や小説を、アニメや映画・ドラマで実写化した作品群のことである。ライトノベルや漫画→アニメor実写という世界では、基本的に、「地雷」という認識である…まぁ、ほとんどの映画・ドラマも「地雷」になるというのは、前にやってた漫画原作「ピンポン」の映画を見ていてよぅくわかった……。

そういったわけで、基本的に、原作ファンの期待をあおり、そして突き落とすしかない原作ものであるが、いくつかの例外も存在する。そうした例外は、たいていは、手間ひまかけてじっくり作りこめる実写映画に多い。もっとも、そうした成功原作つき映画もたいていは、原作とは大きく異なる仕立てで、もはや新しい一つの作品として作られ成功したものだったりする。そんなわけで、原作に忠実に、それも週一ペースで何回も…となると、原作ファンを完璧に満足させる映像化など望めないのが現実だ。


だが、しかし、そんな中、原作を忠実に再現し、かつ週一ペースで放映しながら、あまりの見事さに原作ファンが涙した映像化作品がある。

グラナダテレビ製作のドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」である。

このスペインにあるのか、月面にあるのか、イギリスにあるのかよくわからない名前の会社が、手を出した原作は、19世紀の昔から、世界中に多数のマニアを有する探偵推理小説の黄金の名作シリーズ「シャーロック・ホームズ」であった。そしてその試みは、特にホームズ役を演じたジェレミー・ブレットの生き写しとも言える名演で、完全な成功を見たのである。

と、まぁ、シャーロキアンとは言わない程度にホームズファンである(こういう言い方は、よくされるものだ。なにせシャーロキアンホームジアンと呼ばれるシャーロック・ホームズマニアは、数多く、また、その質たるも半端ではない。まともな出版業のある国なら必ずあるとも言われる様々なシャーロキアン協会の業績はすさまじく、いわゆる同人小説的なパロディ小説(ホームズ・パスティーシュ)はそれだけでひとつのジャンルになるほどである。よって、半端なファンはなかなかシャーロキアンと名乗れず、こうした言い方をするのだ)私としてはいささか興奮してしまったのだが、まぁ、つまりグラナダテレビのホームズはすごかった。NHKで放送した時の声優もはまり役で、衣装背景から脇役にいたるまで細部まで完璧であった。

で、なぜ、シャーロック・ホームズかというと、実は、ホームズこそが私の「嗜好」の原点だからだ。

言っておくが、「ホームズに萌え」たわけではない。断固として。(ホームズとワトソン博士が同性愛者だったなどという作品もあるにはあるが、私は好かん。ちなみにそのパロディ作品の作者は女だった。いつの時代もそういう女子とはいるものである)小学生のある日読んだホームズ作品のひとつ「さびしい(あやしい、という訳もある)自転車乗り」。この作品、ラスト近くで、悪人一味が、依頼者である若い女性の音楽教師を誘拐し、一味のひとりとの結婚式を強制的に上げさせてしまう、というシーンがあるのだが、その挿絵に私の心臓は思わずときめいたのである。

ビクトリア朝期の婦人の普段着であるからして、今でいうパーティドレスと華麗さの度合いではそんなにかわらないそれをまとった美女が猿轡を
かまされて、後ろ手に縛られ、ぐったりしている。絵のタッチが水彩であったからストランドマガジン(ホームズ初期掲載誌)のパジェット画伯のものではなかったと思うが、しかし、私はその絵に初めて女性の美しさを感じたのだ。そう緊○美である!拉○監○○縛!!これこそが女性の美しさを引き立たせるのだと!!!

というわけで、この前ふと立ち寄ったビデオ店にグラナダテレビ版のホームズが置いてあったので、とるものもとりあえず、「あやしい自転車乗り」の収録された巻を借り出したのだ。

そして……さすがは、グラナダテレビ。ナイスである。猿轡のかませ方といいなんといい、それまであまり魅力的に見えなかったヴァイオレット・スミス嬢が、俄然、美女と評すにふさわしい女性に見えるではないか!やっぱりすごいぞグラナダテレビ!!

そんなわけでホームズを読んだことがあって面白いと思った人にはぜひとも薦めるのがグラナダテレビのホームズである。
ついでに、森薫「エマ」が好きな人にもおすすめである。
19世紀ビクトリア朝のご婦人たちはやはり魅力的であるのだ。服装と言うか物腰と言うか、女性が男の鑑賞品でしかなかった時代とフェミニストは言うのだろうが、だからこそ、鑑賞品でしかないからこそ、鑑賞する魅力にはたっぷりなのである。
エマみたいなメイドさんや、気品あふれる上流階級の令嬢、令夫人を鑑賞しつつ過ごす土曜の午後というのも非常におつなものである。

結論、19世紀イギリス萌え。

ちなみに「V.R.」とはヴィクトリアの略で、ホームズが下宿の壁に、拳銃弾を打ち込んで作った文字である。良い子がまねすると、下宿を出る時に敷金にさらに上乗せして支払う必要が出てくるので、あまりおすすめはできないが。